第17話

一度疑惑が芽吹き出すと、おかしいと思えるものがどんどん増えていった。


 まず、自分がいるこの施設だ。前の病院からかなり離れたここは、とても広大な静養地となっているが、施設の中で自分以外の患者を一人も見た事がなかった。


 最初に転院してきた時は意識が朦朧としていたし、手術直後はそれどころじゃなかった。だがしばらくして、体力向上の為に施設をあちこち歩き回っても、見かけるのは看護師達だけだ。患者は自分以外に誰もいなかった。


(まさか、僕一人の為だけに用意された環境だとか…?いや、それはないだろ。ありえないよ)


 何度かそんな突拍子もない答えに辿り着きそうになった。その度に、あまりにも現実的じゃないと考えを打ち消そうとしたが、どうしても消しきれなかった。


 また、善意ある登録者からの提供だというのも引っ掛かった。


 血の繋がった家族でも適合の可能性が低い場合もあるのに、全くの赤の他人からの生体移植が何の問題もなく成功している。しかもこれから先、一生服用しなければならないはずの拒絶抑制剤も通常の半分以下の量で構わないほど適合している…。


 命が助かったのは嬉しい。これでやっと兄さんと普通に暮らしていける。でも、やっぱり…。


 直人は胸元をぎゅっと強く握り締め、決意した。心の中を占めようとしている疑惑を吐き出してやると。

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