第17話
一度疑惑が芽吹き出すと、おかしいと思えるものがどんどん増えていった。
まず、自分がいるこの施設だ。前の病院からかなり離れたここは、とても広大な静養地となっているが、施設の中で自分以外の患者を一人も見た事がなかった。
最初に転院してきた時は意識が朦朧としていたし、手術直後はそれどころじゃなかった。だがしばらくして、体力向上の為に施設をあちこち歩き回っても、見かけるのは看護師達だけだ。患者は自分以外に誰もいなかった。
(まさか、僕一人の為だけに用意された環境だとか…?いや、それはないだろ。ありえないよ)
何度かそんな突拍子もない答えに辿り着きそうになった。その度に、あまりにも現実的じゃないと考えを打ち消そうとしたが、どうしても消しきれなかった。
また、善意ある登録者からの提供だというのも引っ掛かった。
血の繋がった家族でも適合の可能性が低い場合もあるのに、全くの赤の他人からの生体移植が何の問題もなく成功している。しかもこれから先、一生服用しなければならないはずの拒絶抑制剤も通常の半分以下の量で構わないほど適合している…。
命が助かったのは嬉しい。これでやっと兄さんと普通に暮らしていける。でも、やっぱり…。
直人は胸元をぎゅっと強く握り締め、決意した。心の中を占めようとしている疑惑を吐き出してやると。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます