第16話
†
――三ヶ月後。
実に清々しい気分で、直人は目を覚ました。
ベッドから上半身を起こして、思いきり伸びをする。とても身体が軽い。今までの身体は、まるで鉛でできた鎧のように重くて言う事を聞いてくれなかった。
それを三ヶ月ほど前に、やっと脱ぎ捨てる事ができた。前の病院から、ある施設に転院し、そこで移植手術を受けたのだ。二つの腎臓は全く拒否反応を見せず、しっかりと直人の命を繋いでくれた。
健康な身体がこんなに素晴らしいものだとは思わなかった。直人は下腹部をそっと撫でながら、提供してくれたという顔も知らないドナーに感謝した。
始めは、誰かの犠牲によって得られた腎臓なのではないかと嫌な気分になったが、移植手術を担当した医者からは、善意ある登録者二人からの生体移植だから誰も死んでいないと教えられた。
「だったら、僕はお礼が言いたいです。健康な身体を傷付けてまで僕を助けてくれた人達に、一目お会いしたい。会わせて下さい」
何度もそう頼んだが、担当医は困った顔で言葉を濁し、それ以上は何も言わなかった。直人の疑惑の芽はここから小さく育ち始めた。
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