第14話

寛人も、焦っていた。


 昨日の夜、裁人が自分を殺す時に使用する武器が拳銃だと知った時は、少しだけほっとした。もし他のやり方だったら、ましてや、裁人の奥さんを死なせた時のやり方だったら、万一の事が起きかねない。


 次の一発で、確実に殺されなければならない。その為には…。


(榎木さん、最期まで本当にすみません…)


 寛人は心の中で深く詫びてから、榎木新一に向かって叫んだ。


「へいへい!どうした、このチキン野郎!逃げるどころか動く事すらできねえ相手も満足に撃てねえのか、えぇ!?」

「な、に…!?」

「そんな体たらくだから、てめえの女房一人守れねえんだよ!今からでも裁人の権利を放棄して、ママに『僕ね~、何もできなかったよ~』とか言って甘えてきな!あ~ははは!」


 高笑いしながら、寛人は榎木新一を見た。彼の顔に、これまでにない怒りと憎しみが浮き彫りになっていくのが分かる。


 そうですよ、その調子です榎木さん。そこにいて当てられないんだったら…。


「…遠藤~~~!!」


 拳銃を握り締めたまま、榎木新一は大きな足取りで十字架に近付いた。そして、寛人のすぐ目の前まで来ると、彼の額に銃口を当てた。

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