第13話

『時間です。裁人は刑を執行して下さい!』


 ウグイス嬢のアナウンスが流れたと同時に、榎木新一は支給された9㎜拳銃を手に取り、十五メートルほど前方にある十字架の寛人に向けて構えた。


「リ・アクト!リ・アクト!リ・アクト!」


 集まった野次馬達の狂気じみた歓声がうるさいせいなのか、それともずっしりと重い拳銃に慣れてないせいなのか、銃口が小刻みに震えて、榎木新一は狙いを定められなかった。


 それでも構わず撃ったが、九発装填されていたうちの四発目までを、全く明後日の方向に外していった。


「はぁ、はぁ…くそぉ!」


 五発目も外した。六発目と七発目は寛人の頬を掠めただけ、八発目は十字架の足元に潜っていった。


 最後の一発となった。野次馬達は、今までは榎木新一がわざと外していたと解釈しているようで、最後の一発に大きな期待を込めて、さらに「リ・アクト!」と叫び続ける。


 その一方で、榎木新一は焦っていた。


 ついこの間まで、自分は普通の男だったのに、今は拳銃で憎い相手を撃ち殺そうとしている。


 元々が穏和な性格である榎木新一は、護身用の拳銃さえ携帯していなかった。使用するのも初めてに近い。それなのに、最初の的が人間なのだ。何発撃っても、当たる気がしなかった。

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