第12話

「兄さん…、話した?」

「え…」

「もう…兄さんに、苦労かけな…きっと、喜んで…」


 弱々しい声でそう言うと、直人はふっと目を閉じて眠りに落ちた。


 病室に入ってきた時は満面の笑みを浮かべていた今本だったが、直人が眠った瞬間、目尻から一気に涙が溢れて流れた。


「ぅ…ぅっ…!」


 嗚咽しそうな口を押さえて、力が入らない両足を懸命に動かして病室を出る。すると、すぐ目の前に沈痛な面持ちのオガが立っていた。


 オガは、今本から目を逸らして言った。


「…申し訳ありません。私達がもっと強く説得していれば…」

「いえ、きっとこれでいいんです…」


 今本が首を小さく横に振った。


「寛人君がそうしたいと言うのなら…それが彼にとって贖罪(しょくざい)になるのなら…もう苦しまないですむのなら、それで…」






 リ・アクトCase.34の執行日当日。対象者となった寛人は十字架に磔にされた姿で、国営第一競技場の屋外グラウンドまで運ばれてきた。


 裁人・榎木新一の希望で、殺害方法は銃殺と決定した。何も望まなければ、彼の妻・洋子と同じ死に方もさせられたのだが、榎木新一が寛人に指一本触れるのも、ましてや近寄るのも汚らわしくて嫌だと申し出たので、銃殺しか残されていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る