第11話

「そうか、その手があった…こうすればいいんだ」


 ぶつぶつと、まるで自分に言い聞かせるように寛人は何度も繰り返し呟く。ユウヤはそれを黙って見つめていた。


 時間にすれば、五分も経っていないような短いものだったが、二人にはとても長く感じられた。


 やがて、寛人がゆっくりとユウヤの方に顔を向けた。眉を少し寄せて唇を噛み締めている。覚悟を決めた表情をしていた。


 寛人が言った。


「ユウヤさん、頼みがある…弟を助けてくれ」



 数日後、病院の廊下を今本は早足で進んでいた。


 直人の病室の前まで来ると、ノックもせずに慌てた調子で入る。点滴で鎮痛剤を入れている為、その時の直人の意識はぼんやりとしていた。


「直人、直人…!」

「せ、んせ…?」

「直人、喜べ。ドナーが見つかったんだ!直人の腎臓、二つとも治るぞ!明日、別の病院で手術だからな」

「あ、し…た…」


 何だかおかしいなと、直人は思った。


 移植手術をしなければ自分は助からない、それは分かっている。だから、手術できるのはとても嬉しい。


 だが、何故急に決まったんだろう。移植手術は順番待ちだ。自分の番なんて、ずっと後になるはずなのに。どうして、明日なんだろう?ここだって構わないはずなのに、どうして転院する必要があるんだ…?


 ああ、ダメだ。薬のせいで頭が回らない…。


 意識が霞む中、直人は今本に言った。

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