第10話
ユウヤは、そのグラウンドの中心を指差しながら言った。
「俺達が掴んだ情報によると、君に処されるリ・アクトは、国営第一競技場の屋外グラウンドでやるらしい。実に好都合だ。外の方が君をさらいやすい」
「俺を、さらう…?」
「言っただろう、君を助けに来たと。今本さんからの手紙を読んだから、俺は来た」
「…っ、今本さんが!?」
「今本さんの手紙から預かってきた伝言がある。『寛人君の適合検査の結果は良好でした』…この意味が分かるか?」
グラサン越しに、ユウヤの目が寛人をまっすぐ見つめていた。大して年も違わないはずなのに、寛人にはユウヤの姿がとても大きく見える。そのせいか、寛人の喉はからからに渇いて言葉が出てこなかった。
「君は、生きなければならない」
すぐに答えられない寛人に焦れたのか、ユウヤが少し大きい声を出した。
「事情は全て分かっている。このままだとせっかく戸籍を変えて助けた形にしていても、弟さんは病気に殺されてしまう」
「……」
「リ・アクトから連れ出した後は、君と弟さん、それに今本さんの三人をA国に亡命できるよう取り計らうよ。そこで君から腎臓を一つ分けてもらって移植手術を受けた後は、次のドナーが現れるまで静かに暮らして…」
「ちょっと待てよ」
ユウヤの言葉を遮り、寛人は自分の両の手のひらを見つめる。ブルブルと震えていたが、それは恐怖によるものとは違っていた。
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