第8話

「あんた、何バカな事を言って…」

「彼はじきにリ・アクトを受ける身だ。身寄りがいない以上、彼の言い残したいものやその他の事を聞くのは、弁護士である私の役目でしょう?大体あなたがいなくても、監視カメラがある。何の問題もないはずだ」


 ぴしゃりと言い放つ弁護士に、刑務官は反論する言葉が見つからずに押し黙った。そんな二人の様子を見て、寛人は違和感を覚えた。


「…じ、時間は二十分を目処にして下さい!」


 悔しげに言葉を吐き出し、刑務官は接見室から出ていく。寛人は立ったまま、弁護士を見つめていた。


「どうしました、寛人さん。さあ、座って下さい」

「あんた、誰だよ?」

「はい?」

「裁判の時の弁護士さんは、今のあんたみたいにハキハキした話し方はしなかったし、俺の事は他人行儀に遠藤さんって呼んでた。寛人さんなんて呼ばなかった」

「……」

「誰だよ、あんた…」

「そんな小声で話さなくても大丈夫だ。今頃、俺の仲間が監視カメラの映像と音声をいじって役立たずにしてるからな」


 ふっと不適に笑ったかと思うと、弁護士はおもむろに自分の頭とあごを掴んで引っ張った。すると、精巧に作られたカツラとゴム製のマスクがずるりと外れ、代わりに精悍な若い男の顔が現れる。


 弁護士に化けていたその男は、スーツのポケットからグラサンを取り出してかけると、言った。


「俺はレッド・ティアーズのユウヤだ。君を助けに来た…」

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