第四章 [93~94P]

第93話

「佐伯、これに作品を出してみないか?」


 ある日の事だった。絵画教室の準備をしようとアトリエに入ってきた僕に、先生が一枚の応募用紙を手渡してきた。


「これは?」

「今度開催される人物画のコンクールだ。今までより少し規模が大きいが、腕試しのつもりで出してみないか?」

「……」

「自信がないのか?」

「いいえ」


 僕は苦笑した。


「いいタイミングだなと思っただけです。ちょうど一つ描きあげたばかりでしたから」


 僕はアトリエの奥に置いてあるキャンバスの一つを指差した。


 それは、分厚い布に包まれた大きめのキャンバスだ。いつの間にこんな物があったのかと言いたげに、先生は首を傾げている。僕はキャンバスに近付いた。


「見て下さい、先生」


 僕は布を一気に取り払った。キャンバスに描かれたものが、僕と先生の目の前に広がった。


「これは…」

「どうですか、先生?」

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