第92話

「気が向いたら描いてやるよ」

「下手クソだろうから、期待しないで待ってるわ」

「そうしてくれると助かる」


 泣けない代わりといっては何だが、僕は笑う事にした。僕はまっすぐにチリを見て、彼女の為だけにそっと笑ってみせた。




 チリは死ぬまで、僕だけを好きだとは言わなかった。


 ケンだけを好きだとも言わなかった。


 チリの事をずるい奴だと思った。だけど僕は約束通り、チリのわがままを叶えてやった。


 僕は葵と一緒に、眠るように静かに逝ったチリの最期を看取った。

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