第89話

「これで大丈夫♪」


 満足したように、葵が言った。僕とケンは顔を見合わせたが、次の瞬間には思わず吹き出していた。


「確かにな」

「ああ、これで正解かもな」

「そうでしょ?」


 葵が僕達の腕を取って、ぶんぶんと振り回し始める。


「葵、すごい自慢だよ。葵には、パパとお父さんがいる。すごいすごい!」


 葵はそう言って、無邪気に笑った。


「…いいんだな?」


 ケンが囁くように僕に言った。僕は頷いた。


「ああ、俺はもう充分だよ。美代子さんもお前と同じ気持ちになってくれて良かった。葵をよろしく」

「疑っているようだから言わせてもらうが、本当に悔しかったんだからな?」


 ケンが言った。


「お前とチリがキスしてるのを見てしまった時は、本当に悔しかった…」

「知ってるよ。安心しろ、次はお前がチリのわがままを叶えてやる番だ」


 僕は葵の頭をそっと撫でた。多分、これが最後になると思う。葵はとても気持ち良さそうに口元を緩めていた。

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