第82話
「すぐに行く」
そう答えた健司が小一時間かけて病院に着いた時、僕はロビーのソファで葵と一緒に待っていた。
葵には「ママの友達がお見舞いに来てくれる」と説明していたのだが、待ちくたびれたのか彼女は僕の腕の中にすっぽりと収まり、まるで子犬のように丸まって眠ってしまった。
息を切らしてロビーに飛び込んできた健司は、僕に抱かれて眠っている葵に気付くと、その寝顔をそっと覗き込んできた。
「この子が、葵…」
「ああ、そうだ」
「チリにそっくりだ」
「お前に似なくて良かったな」
「放っておけ」
こんな状況でなければ、何て事ない普通の会話だったのにと僕は悔やんで仕方がなかった。この悔しさはきっと、健司も同じはずだ。健司が葵を見る目は嬉しさと悲しみが交互に移り変わっていた。
チリには、内科病棟の一番端の個室が用意されていた。僕達が個室のドアをくぐると、チリは上半身を軽く起こして窓の外の風景をぼんやりと見つめていた。
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