第81話
「高村…」
言葉が僕の喉に引っ掛かっていた。どう切り出していいのか分からない。どうやって、チリの事を話せばいいのか分からなかった。
『…何か用か?』
黙ってしまった僕に痺れを切らしたのか、健司が少し苛立った声で言った。
『この間の文句なら聞かないぞ。あれは本心だ…』
「高村」
『でもな、誤解は困る。言い訳がましいが、美代子を愛していない訳じゃない。ただ、気持ちを伝えるのはどうしてもチリが先じゃなければいけないんだ。どっちでもいいと言ったのは、こんな俺を美代子が伴侶に選ぶか選ばないか…という意味だ』
胸が痛んだ。それと同時に、僕は健司に負けてしまったと確信した。チリが葵を産んだのが、何よりの証拠じゃないか。僕は覚悟を決めて話しだした。
「…高村、今から出てこれないか」
『何?どこへだ?悪いがもうすぐ出かけるんだ、接待があってな』
「頼むよ、今から言う病院まで来てくれ。十分、いや五分だけでも構わないから」
『どうかしたのか、佐伯…』
「チリに気持ちを伝えたかったのなら、今すぐそうしてやってほしいんだ」
僕がそう言うと、耳元で健司の息を飲む音がクリアに聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます