第61話

「誰かの葬式に出るなんて、ばあさんの時以来だったからな。小学一年くらいか…あの時は、年寄りだから当たり前で仕方ないと思っていた」

「自分の父親なのに、どこか他人事のように感じている俺は冷たいだろうか?」

「現実に心が慣れていないだけだ。心配するな、『たかむら』は冷酷な人間という訳じゃない」

「『こうむら』だと言ってるのに…」


 そう言いながら苦笑すると、健司はあぜ道の脇に歩を進めて、そのままどかりと座り込んだ。腰の辺りが小石や砂埃のせいであっという間に汚れていったが、全く気にしていない様子だった。


 僕も彼の隣に腰を下ろしたら、「汚れるぜ?」という健司のからかい口調の言葉がやってきた。


「そっくりそのまま返すよ」


 僕はすぐさま、そう答えてやった。




 それから何日か経って、有給を使いきってしまったらしい健司は、また町を出ていく事になった。


 たまたま週に一度の休日が重なった僕は彼を見送ってやろうと思って家に向かうと、健司は玄関先に停めてあった車のトランクに大きなボストンバックを詰め込んでいる最中だった。

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