第60話
「あっけないものだな…」
ふいに、健司がぼそりと口を開いた。
「ついこの前電話で話した時は、ずいぶん元気だったんだ。死ぬなんて、まだまだ先の話だと思っていた…人が一人この世からいなくなってしまったのに、町の景色とか他のものは何も変わらないな」
「確か六十五歳だったよな、親父さん…」
「ああ。遅い結婚だった上に、俺は親父が四十代の時に生まれたから」
健司は足元の小石を蹴った。小石は身を弾ませながらカラカラと転がっていき、あぜ道の横にいくつかある水溜まりの一つにぽちゃんと落ちた。水溜まりの上で波紋が静かに広がっていたが、耳を澄ませば大きな外輪になろうとしている動きのささやかな音色が聞こえてきそうだった。
「なあ、佐伯」
健司が水溜まりの方に視線を落としたままで言ってきた。
「誰かがいなくなるというのは、こんなに静かすぎるものなのか?」
「よく分からない」
僕は答えた。
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