第59話



 数ヵ月後。健司の親父さんが病気で亡くなったという話が耳に飛び込んできた。小さな田舎町だから親父さんを知る全ての人が弔問に集まり、彼の死を惜しんでいた。


 もう二度とこの町には帰ってこないと豪語していた健司だったが、さすがに父親の葬儀の場にはいた。告別式では喪主を立派に務め、夫を失って終始暗い顔をしている母親を懸命に支えているようだった。


 告別式・火葬まで済んだ翌日、仕事を終えた僕はとりあえず一段落したであろう高村家を訪れてみた。出迎えたのは喪服姿の健司一人だった。


「おふくろさんは?」


 僕が尋ねると、健司は小さく首を横に振って苦笑いを浮かべていた。


「分かった、外に出ないか?」

「ああ、少しならな」


 僕の提案に頷いてくれた健司の目の下には、うっすらとクマができていた。昨夜は一睡もせずに親父さんの側にいたのだなと何となく思った。


 僕と健司は相変わらず舗装されていないあぜ道の上を、肩を並べてゆっくりと歩いていた。


 両親から聞いた話だが、健司の親父さんはなかなか男気がある上に面倒見がよく、近所の誰からも好かれていたそうだ。僕はほとんど面識がなく関わりを持つ事もなかったが、健司はそんな親父さんの影響を受けて今まで生きてきたのだろうという事が何となく想像できた。

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