第51話

「資格云々は関係ない。チリが自分で選んだ人生で、それに対して何の後悔もしていなかった。少なくとも一緒に暮らした一年と四ヵ月、俺はチリのそんな様子をただの一度だって見た事はなかった」

「チリがお前を愛していたからだろう」

「それは少し違う。わがままで勝手なふうに見えるが、実はウサギのような奴なんだと、一番分かっていたのはお前じゃないか」


 僕はケンの代わりに腕を伸ばし、葵の背中を抱き締めた。葵の小さな肩がぴくりと揺れるが、すぐにまた静かになって僕をちらりと見上げる。「ん?」と声をかけてやると、葵は反射的ににこっと笑った。


「分かるだろ」


 僕はケンの方に向き直って言った。


「葵の存在は、一つの証のようなものだ」

「何のだ?」

「チリはあの時、確かにお前を愛していたよ。そうでなければ、葵を産んだりしない」

「……」

「お前はチリの夢を叶えた。妬けるよ、俺は夢を叶えたチリの姿を見守るしか術がなかったんだから」

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