第50話
「何だよ、チリの奴」
僕は一人呟いた。
「言ってくれた方が、良かったってのに…」
何度も同じ言葉を繰り返す僕を、タクシーの運転手がバックミラー越しにちらちら訝しく見やっていた。
翌日の昼過ぎ、少しの気怠さを引きずりながら僕は健司の家に電話をかけた。しかし電話に出たのは健司の母親で、彼は朝早くに町を出ていったと言われた。
昨夜の礼が言いたいのとチリの安否が気になったのとで、すぐに彼の携帯電話の方にもかけ直したのだが、何故かもう繋がらなくなっていた。
†
「俺には自信どころか、資格もない」
ケンがぼそりと言った。伸ばしかけたその両手は葵を抱き締めようとするのを懸命に堪えているらしく、こぶしとなって宙をさまよっていた。そんなケンを、葵は不安そうに見つめていた。
「そんな事はない」
僕は言ってやった。
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