第49話

たった一杯のアルコール量ですっかり微酔い感覚である僕もおどけた感じで尋ねてみたが、チリは健司の肩に寄り添ってへらへらと笑うだけで返事はしなかった。「こりゃダメだな」と言う健司の呆れた声が聞こえた。


「どこかで安宿を見つけて、こいつ泊まらせよう。まさか俺達の家に連れてく訳にもいかないし」

「そう、だな…」

「お前も大丈夫か、佐伯?」

「余裕ない…」

「分かった」


 一人だけ元気そうに振る舞う健司が携帯電話で連絡を入れると、十分もしないうちに二台のタクシーがやってきた。


「チリは俺が送っていくから」


 そう言って、健司は僕をタクシーの座席に押しやった。


 朝早く起こされた事やアルコールを飲んだ事が重なって強い眠気に襲われていた僕はすっかり彼の言葉に甘え、気が付けば僕を乗せたタクシーは二人を残して発進していた。


 タクシーは外灯が少なくて薄暗いあぜ道を、僕の家に向かってまっすぐ進んでいた。未だ満足に舗装されていない道の上でガタゴトと揺られる中、僕はぼんやりとした頭でチリの言った言葉を思い出していた。

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