第46話

僕が神社に辿り着くと、六年前の縁日の時のようにチリが賽銭箱の前で立っていた。


 一人でいるところを見ると、まだ健司は来ていないのだろう。僕がすぐに声をかけると、チリはほっと安心したような笑みを浮かべた。


「来てくれないかと思っちゃった」

「何でそう思うんだよ」

「何となく」

「ありえないだろ、久しぶりに会ったのに」

「だからよ」


 賽銭箱の側から離れたチリは、懐かしそうに境内を見回している。僕は彼女の背中を見つめる形で後をついていった。


「忘れられてるかなって思ってたし」


 チリが言った。


「私、急にいなくなったでしょ。誰にも引っ越し先は言ってなかったし、連絡も取らなかったから」

「よく言うよ」


 僕は肩を竦めながらも、神社の北側に目を向けて言ってやった。


「いきなり人の一発目を奪っておいて。嫌でも忘れられないさ」

「いいじゃない、そんなの」

「何であんな事したんだよ」

「だって、子供の頃から描いていたささやかな夢の一つだったんだもの」


 振り返ったチリの顔は、ひどく穏やかに笑っていた。


「好きな人とキスする事が。だから、叶って良かったわ」

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