第45話

「チリ、お前…」

「会いたかったよ、ショウ」


 チリがにっこりと笑った。隣に立つ健司も口元が緩んでいて、ちょっとおかしい顔になっていた。


「チリ…」

「やっとチリって呼んでくれたね」


 チリが言った。


「ねえ。私も式に入っちゃっていいかな。こっそり忍び込めば大丈夫だよね」

「別に構わないだろ」


 よっぽど嬉しいのだろう。生真面目な男が、彼らしくない言葉を口にする。反対する理由なんか思い付かなかった僕も、即座に頷いた。




 成人式が終わった後、僕と健司は堅苦しい服を着替える為に一度帰宅した。


「面白いから、そのままどこかへ行かない?」


 そう言ってチリはけたけた笑っていたが、僕はともかく、健司には酷な提案だった。きっかり一時間後に神社の境内で待ち合わせる約束をした僕達は、大急ぎで公民館から離れた。


 家に戻ると、すぐにスーツを脱ぎ捨て、私服に着替え直した僕は、何故だかひどく興奮していた。


 何度頬を叩いてみても、口元の緩みは治まってくれない。こんな顔で神社に行ったらチリにからかわれる事は充分に分かっていたはずなのに、僕はそのままの顔で神社に向かった。

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