第45話
「チリ、お前…」
「会いたかったよ、ショウ」
チリがにっこりと笑った。隣に立つ健司も口元が緩んでいて、ちょっとおかしい顔になっていた。
「チリ…」
「やっとチリって呼んでくれたね」
チリが言った。
「ねえ。私も式に入っちゃっていいかな。こっそり忍び込めば大丈夫だよね」
「別に構わないだろ」
よっぽど嬉しいのだろう。生真面目な男が、彼らしくない言葉を口にする。反対する理由なんか思い付かなかった僕も、即座に頷いた。
成人式が終わった後、僕と健司は堅苦しい服を着替える為に一度帰宅した。
「面白いから、そのままどこかへ行かない?」
そう言ってチリはけたけた笑っていたが、僕はともかく、健司には酷な提案だった。きっかり一時間後に神社の境内で待ち合わせる約束をした僕達は、大急ぎで公民館から離れた。
家に戻ると、すぐにスーツを脱ぎ捨て、私服に着替え直した僕は、何故だかひどく興奮していた。
何度頬を叩いてみても、口元の緩みは治まってくれない。こんな顔で神社に行ったらチリにからかわれる事は充分に分かっていたはずなのに、僕はそのままの顔で神社に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます