第44話
僕が公民館に着いたのは式が始まる一時間以上も前だというのに、その周辺は道路に到るまで新成人で溢れ返っていた。
彼らのほとんどが着物やスーツや袴姿であり、私服やウケ狙いの奇抜な仮装で来ている者などほんのわずかだ。こうなってくると、誰も彼もが同じような顔に見えて、健司を捜し当てるのは至難かと思ったその時だった。
「ショウ、こっちこっち!」
六年ぶりに聞く、とても懐かしい声だった。まさかとは思ったが、僕をショウと呼ぶのは彼女以外ありえなかった。
「ショウ!」
僕は声のする方を、ゆっくりと見てみた。
喧騒の中でもはっきりと聞こえたその明るい声の主は、公民館の入り口の所で羽織袴を着た健司と一緒に立っていた。白いロングコートとセーター、茶色のスカートにブーツといったシンプルな格好で、僕に向かって手を振っている。
「チリ」
僕の足はいつのまにか駆け出していた。走り寄る事でだんだんはっきり見えてくるチリの顔には薄い化粧が施されていて、中学の時とは違う美しさがしっかりと映えていた。
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