第41話

スーツと羽織袴が収められたケースを抱えて、僕と健司は家までの道を肩を並べて歩いた。話す事といえば互いの近況など他愛のない事ばかりだったが、懐かしさも手伝って全く退屈せず笑い通しだった。


「本当は、帰ってくるつもりなかったんだけどな」


 一通り話し終わったところで、健司が言った。左手に提げているケースを軽く持ち上げて苦笑する。


「成人式なんて出る気なかったから、はがきが来た時は焦ったよ。まさかこんな物まで用意されていようとはな」

「俺もだよ。スーツなんて縁がないと思っていた」

「お前、今は専門学校だったな。今度の春で卒業だろ、将来はどうする気だ?」

「まだ決めてない。絵に関する仕事をしたいと思うけどこのご時勢だ、できるかどうか…」

「この町を出る気は?」


 健司のその問いに、僕はすぐには答えられなかった。根っからの田舎者である僕は、それまで一度もこの町を出て暮らしていこうなどと考えなかったからだ。僕が黙ったまま少し顔を逸らしていると、健司はぼそりと言った。

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