第40話

「お隣さんも、明日成人式なんですって」


 聞いてもいないのに、女性店員が言った。


「へえ、そうなんですか…」


 隣にいるのが誰かなんて興味もなかった僕はぼそりと言葉を返したが、相手にはしっかりと聞こえていたようだった。そして、まさかその相手が声をかけてくるだなんて思ってもみなかったので、僕は慌てふためいた。


「…その声、佐伯か?」

「え?」


 カーテンが開かれる音と共に現れたのは、二年ぶりに見る健司の顔だった。


 僕をまじまじと見ている健司は少し大きめの羽織袴を着ていたが、元々がっちりとした体格の上にそんなものを纏っているものだから、全体的に何だか角張っているように見えて、あまりにも不格好だった。


 彼にはやはり野球のユニフォームがよく似合っている。僕は挨拶をするより前に、堪え切れず吹き出してしまった。


「『たかむら』…。お前、ウケる…」

「何度言ったら分かる。俺は…『こうむら』だ、と…ククク…」


 昔のように文句を言おうとした健司だったが、彼も僕のスーツ姿が滑稽に見えたのだろう。口元を押さえてはいたものの、おかしくてたまらないといった表情で短く笑っている。僕達二人がいつまでも笑い通していたので、女性店員は訳が分からないといったふうに困り果てていた。

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