第39話
最終チェックといわんばかりに、女性店員が僕を試着室へと追いやった。狭い空間の一面に貼られた大きな鏡にシワ一つない新品のスーツをかざしてみても、自分が大人になったという実感があまりなかった。
「いかがでしょうかぁ?」
スーツを着てみたと同時に、まるでタイミングを図っていたかのような女性店員の声が試着室のカーテン越しに届いた。
サイズこそぴったりだったものの、自分でもあまりに見慣れず、無理に大人ぶっているような、それでいてくすぐったいようなスーツ姿を見られるのはかなりの抵抗感があった。
「大丈夫です」と慌てて答えるも、女性店員はどこかきつい所はないかとか、裾の長さは本当に大丈夫かとか実に仕事熱心だった。僕が試着室から出てくるまでは諦める気はないようで、僕はがっくりと肩を落としながらカーテンを引き開けた。
「うん、とてもよくお似合いです」
細かに僕のスーツ姿をチェックした女性店員がにこやかに言う。あははと苦笑しながらふと横を見てみると、隣の試着室のカーテンも閉じられていて、衣擦れの音と野太い溜め息が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます