第28話

「…分かったよ」


 文句を言うのも面倒臭くて、僕は歩きだした。


 始まったばかりの縁日は人混みの波で歩きにくく、少し息苦しかった。


 賽銭箱のある場所から境内の端まで向かうなど、いつもならどんなにゆっくり歩いても一分かからない。しかし辺りを眩しく照らされた上に、両脇を屋台で挟まれた狭い道のりと人々の群れは僕の歩みを確実に遅くさせた。


 十分近くかかって片道を渡りきり、おばあさんのたこ焼きの屋台に着くと、作り置きされていたパックを人数分買った。


「これはおまけだよ」


 そう言いながら、おばあさんはたこ焼きのパックと一緒に小さな何かをいくつかビニール袋に入れた。「それは何?」と尋ねても耳が遠いのだろうか、返事をしてくれなかった。


 元いた場所に戻ろうと、来た道を振り返ってみたが、さらに増えた人混みがうっとうしく目に映って僕の気を削いだ。


 ぐちゃぐちゃに入り乱れている中に潜り込んで、せっかくのたこ焼きも台無しにしたくない。どうしたものかと少しの間立ち尽くしていたら、何かがとんとんと僕の肩に当たってきた。

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