第27話

「あれ?二人だけぇ?」


 チリがいかにも不満そうに頬を膨らませた。


「不服かよ?」


 健司がまた苦笑いを浮かべた。


「そう言うなよ、祭りだから仕方ないさ。どこかの屋台で会えるだろ。佐伯、何か食うか?」

「え…」

「何が食いたい?」


 チリを見るのに夢中になっていて、健司の言う事など半分聞いていなかった僕は間抜けな声を出してしまった。とっさに答える事ができずにまごまごしていれば、女子達は何がおかしいのか小さく笑い、チリも「どうしたの?」と首を傾げている。


 僕は皆から視線を外して、早口で答えた。


「な、何でもいいよ。たかむ…」

「禁句だって言っただろ、佐伯」


 僕の言葉を遮った健司は、心底呆れたような顔をしてみせた。あっと思った時には、僕は彼の手から強引に千円札を二枚持たされていた。


「ペナルティだ、一人で人数分のたこ焼き買ってこい。ちなみに、あそこのが一番うまい」


 健司が言った。その指は僕達がいる場所とは正反対の、境内の隅の方を指差していて、軒並み連ねている屋台の一番端で、おばあさんが一人でせっせとたこ焼きを焼いているのが小さく見えた。

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