第26話
「もちろん最初は断ったよ。人混みは好きじゃないんだ。でも」
「…チリだろ?」
「ああ、まいったよ」
僕は頭をガリガリと掻いた。
人の都合などお構いなしであるチリの上目遣いには、どうやらとてつもなく大きなパワーが秘められているようで、僕の「行きたくない」という意志を簡単に打破してしまった。正直、迷惑だと思った。
「まあ、そう怒るなよ」
苦笑しながら、健司が僕の肩を二度三度叩いた。
「わがままといえばそれで終わりだが、決して悪い奴じゃないんだ。ただ、ちょっと…」
「ちょっと?」
「強いて言えば、ウサギみたいな奴なんだよ」
「何だよ、それ」
「もう少しチリと話してみれば分かるさ」
そう言って、健司は肩を竦めてみせた。
十分ほどして、チリは何人かの女子と一緒に浴衣姿でやってきた。
今まで制服と体育用のジャージ姿しか見た事がなかったので知らなかったが、白百合の模様が入った紺色の浴衣に、赤色を基調とした蝶の形の髪留めで髪をまとめたチリはとても艶やかで綺麗だった。
もちろん、他の女子もそれぞれに似合う浴衣を着ているし、可愛らしい小物や髪留めまで揃えているのだが、僕の目は見慣れないチリの姿をしっかりと捉えてしまって自分の意志では動かせなかった。
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