第24話

それ以上の会話が出てこず、僕とチリは黙ったまま、あぜ道の上を並んで歩いた。


 チリの自転車のタイヤがあぜ道の小石を踏んで、パラパラと乾いた音を立てる。そのいくつかが僕の足元にも軽く飛んできたので、僕は何度かそれらを靴の爪先で蹴り当てては前方へと転がして遊んでいた。


「じゃあ、私こっちだから」


 ふいに言われ、僕は足元に落としていた視線を持ち上げる。いつのまにかチリは再び自転車に乗って、左に折れる別れ道を行こうとしていた。


「あ、聞いたよ。バレーボールの優勝おめでとう」

「嫌味かよ。頑張ったのはあいつで、俺は何もしていない」

「そうなんだ」


 僕が答えるとチリは自分の口元に軽く手を添え、何か考え込んでいるような仕草を見せた。僕はしばらくチリの様子を見守っていたが、やがて彼女はいつか見せてきた上目遣いでこう言った。


「ねえ、お祭りに興味ある?」

「は?何をいきなり…」

「神社でもうすぐ縁日あるんだって。優勝祝いに皆で行こうよ」


 夕暮れがかった空の色が僕達を包んでいる。土から早めに出てきてしまったアブラゼミの鳴き声が一つ聞こえていた。

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