第22話
ちらりと振り返って、健司が言った。
「佐伯、お前に禁止事項を二つやる。俺の目の前で『どっちでもいい』なんて言葉は使うな。それから、俺は『こうむら』だ」
「知ってて、言ってるんですよ」
嫌らしく答えてやると、健司は肩を竦めて短く笑った。
昼食後、体育館に戻る際にもう一度廊下の窓からグラウンドを見た。
全ての試合スケジュールが終わってしまったのか、そこにはチリや他の生徒の姿はなく、石灰の粉で縁取られたコートだけががらんと残されていた。僕の横を追い抜こうとした健司が「やっぱりな」と呟いた。
「チリの勝ちだ」
「何で上条が勝ったと思うんだ?」
「昔から、そういう奴だからだ」
そう答えた健司は、準決勝でいくつもスパイクを決めてチームを決勝まで導き、その決勝も簡単だと言わんばかりに勝利をもぎ取ってしまった。
補欠の僕がやった事といえば、優勝が決まった瞬間に始まった健司の胴上げへの参加ぐらいだった。
「…ショウ!」
一日かけて続いた球技大会が終わり、大して疲れてもいない軽い足取りで校門をくぐった時、そこから少し離れた所にある自転車置場からチリが自転車に乗って飛び出してきた。
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