第21話

健司がもう一度言った。


「チリが勝つに決まってるだろ」

「チリ…、上条か?」


 何故だろう。チリの名前を聞いた途端に、面倒臭いという感覚が消え去った。


 僕の身体は自然と窓に近付き、すっと健司の横に立った。確かに彼の言う通り、ドッジボールのコートの東側にチリが立っているのが小さく見えた。


「内野の一人で逆転は無理じゃねえの?」


 誰かがからかうように言ってきた。敵の外野からも内野からもボールが飛び交い、チリは必死で躱し続けている。時間の問題かとも思ったが、ふと放たれた甘いパスボールを彼女が見事に奪い取ったのを見た時、僕は反射的に両手のこぶしをぎゅっと握り締めた。


「決まりだな」


 嬉しそうな声でそう言うと、健司は窓から離れて再び歩きだした。「おい…?」と僕が声をかけても、健司はなかなか歩みを止めなかった。


「もう見ないのか、『たかむら』?」

「チリがボールを取った時点で、相手は終わったよ。早く昼飯食っちまおう、準決勝に遅れる」

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