第20話

「なあ、佐伯」


 誰かが僕の名を呼んだ。「ん?」と顔を上げてみると、窓枠に身を寄せている奴らの一人が肩越しに僕を振り返って手招きしていた。


「何だよ?」

「あそこ、どっちが勝つと思う?」


 そいつは、グラウンドのある部分をすっと指差した。首を伸ばしてちらりと見てみれば、そこではどこぞの組の女子達がドッジボールをしている最中だった。


 ゲームの展開は実に一方的だった。コートの東側を陣取っていたチームは西側のチームによって面白いくらいにボールを当てられていき、ものの数分で残り一人となってしまった。


「どっちでもいいよ」


 もはや先の見えた状況であったが、両チームともうちのクラスではなかったし、それ以上に興味も湧かなかった。面倒臭いという意志をたっぷり込めて、僕は言った。


「どっちでも構わないだろ。俺らには関係ないし」

「…チリが勝つよ」


 ふいに割り込んできた言葉に、全員がその方へと顔を向けた。見ると、健司がたった一人残った東側のチームの陣地を真剣な表情で見守っていた。

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