第18話

「本当にどれでもいいんだけどな」


 焼きそばパンの残りを口に押し込んでから、僕は言った。


「どれが得意って訳でもなければ、どれも特別やりたい訳でもないし」

「きちんと選べ、佐伯」


 大きな口を開けて、健司はメロンパンをうまそうにかじる。


「人間は選択肢を与えられたら、どれかを選ぶべきだ。どれでもいい、何でもいいなんて言葉は嫌いだ」

「俺は嫌いじゃないけど」

「この程度の選択くらい、自分でやってくれ」


 そう言って、健司はズボンのポケットから一枚の紙切れを僕に手渡してきた。紙切れには五種目の球技名と、それぞれの希望欄に僕を除くクラスの男子全員の名前が記されてあった。


 少しの間、黙って紙切れとにらめっこしていたが、諦めの早い僕は「これにする」とバレーボールの欄を指差した。


「俺と一緒じゃないか」


 健司が言った。


「しかも、残り枠は補欠の分しかない」

「きちんと選んだからいいだろ」


 何やら文句を言おうとしている健司を無視して立ち上がると、僕は足早に屋上を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る