第15話

「やる必要ないだろ」


 僕がカードを指で弾くと、チリの顔は不満の色を隠せずにむくれた。


「何で書いてくれないのって顔だな」

「うん」

「この時期には定番の代物でも、今の俺達には必要ないよ」

「そんな事ない」


 チリの小さな手が、再びカードを僕の目の前に押し出す。相変わらずしつこいなと思った。


「お前な」

「名前だけでもいいよ」

「だから、何で…」

「二年になったらクラス替えだから」

「は?」

「寂しいから」


 そう紡いだチリの声は本当に寂しげで、しょんぼりと俯き加減になった。この一年間、ずっと彼女の隣の席にいたがこんな様子をみるのは初めてだったので、ちょっと戸惑った。


「おい、上条…」

「ショウ」


 上目遣いで僕を窺い見てくるチリの瞳が少し揺れている。それを見た瞬間に観念してしまった僕は、カードを手に取り、項目に従って書き連ねた。


「ほらよ」


 書きあがったカードを渡してやると、チリは安心したように長い息を吐いた。いつかの女子のように「ありがとう」とは言わなかった。

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