(2)[14~24P]

第14話

中学二年に進級したと同時にクラス替えがあり、僕とチリとは別々のクラスになった。


 しかし、学校のどこにいても、僕はチリを簡単に視界に入れる事ができた。彼女の騒がしく明るい声は途絶える事なく、皆の耳に届いていたからだ。


 あの雨の金曜日を過ぎてから、僕の中でのチリの印象はほんの少し変わっていた。基本的にチリの内面はどこも変わっていないのだが、ただ騒がしくてわがままだけの奴ではない事を知ったのは、中学一年の三学期が終わろうかという頃の事だった。


 その日、チリは朝からクラスの皆に何かを配って回っていた。「終了式が終わるまでには返してね」と言って、僕の机の上にも置かれたそれは、一枚のカードだった。


「何だよ、これ」

「見て分かんない?」


 分からない事はなかった。似たようなものであれば小学校を卒業する時、一人の女子から書いてほしいと頼まれて渡された経験がある。


 自分の名前やら身長やら体重やら、趣味に到るまでの個人情報を書き込まなければならないカードをいやいや書いて返すと、その女子が満面の笑みを浮かべて「ありがとう」と言ったのを覚えている。その時はよほど嬉しいんだなと思ったが、どうしてチリが今こんな真似をするのかよく分からなかった。

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