第13話

冷蔵庫から缶ビールを二本持ってきて、僕とケンはちびちびと飲み始めた。さらさらと降り始めた雨はやむ気配を見せず、ケンは困った顔で窓の外を眺めている。


「まだ仕事があるというのに…当分、出ていけそうにないな」

「葵に会っていけと言ったはずだぞ?」


 絶え間ない雨の音の中でも、まだ葵は目を覚ましていなかった。気持ち良さそうに、小さく短い寝息を繰り返している。


「昨夜はなかなか眠ってくれなかった」


 僕は言った。


「チリがいなくなって、とても悲しんでいたよ」

「お前がいる」

「俺ではチリの代わりになれない」

「……」

「そして、お前の代わりにもなれない。まあ、当然の事だけどな」

「嫌味のつもりか?」

「いや、本心だよ」


 僕は棺桶をそっと見つめた。最期の最期まで、チリは僕に大事な言葉を言ってくれなかった。


「たった一年だ」


 ビールを一口飲んで、僕は言った。


「どうして、たった一年でこうなるんだ」

「間違えるな。正確には、一年と四ヵ月だ」


 ケンがぴしゃりと言い放った。


「嫌味っぽいのは、むしろお前の方だな」

「当然だろう。俺にはその権利がある」


 むっとして言い返したのも束の間、ケンの口からまた切ない声がこぼれた。


「あの頃は、自信がなかったからな」


 ケンの瞳が、眠っている葵を捉えていた。

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