第12話
「綺麗だね」
チリが言った。
「これなら使えるね」
「まだ分からないだろ。他の奴はダメかもしれない」
「じゃあ、一本ずつ試してみる?」
そう言って振り返ったチリの顔を、チカチカと光る火花の明るい色が照らしていた。そのせいか、この時のチリはほんの少しだけ可愛く見えた。
チリがふざけてまた何本かの花火に火を点け、一通りはしゃぎ終わった後で通り雨は過ぎ去った。僕がまた両手一杯にビニール袋を持とうとしたら、「私、半分持つ」と言って、チリは僕の右手が提げていた袋を取った。
「サンキュ…」
今度は僕の横に並んであぜ道を歩くチリだったが、その肩はまだ濡れていた。つい気になって、そっと触ってみると「どうしたの?」とチリが尋ねてきた。僕はごまかし笑いを浮かべながら、「何でもないよ」と答えた。
†
「懐かしいよ」
僕はぼそりと言った。
「雨が降りだすと、決まってチリを思い出していたよ。彼女と雨は切り離せずにはいられなかった」
「根っからの雨女だったからな、あいつは」
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