第11話
「ごめん」
僕が謝罪の言葉を呟くと、チリは首を傾げながら「何で?」と返してきた。
「何がごめんなの?」
「いや…」
「それの事?」
チリは僕の手に握り締められたままの、ずぶ濡れのビニール袋を指差してきた。その指先も、通り雨の雫で少し濡れていた。
「貸して?」という言葉と共に、チリは僕の手からビニール袋を一つ取ると、その中から何本かの線香花火と備え付けのライターを引っ張りだした。「きっと湿気てるよ」と、僕は溜め息を漏らした。
「多分、もう点かないと思うけど」
「そうかな?」
口の端を持ち上げるようにして笑うと、チリは不慣れな手付きでライターの火を点け、もう片方の手に持っていた線香花火に近付けた。
最初は何の変化もなかったので、やはり湿気てしまったのだろうと思っていたが、少し時間が経つと線香花火から火薬の独特な臭いが立ち上ってきた。
「ほら、ショウ!」
チリの嬉しそうな声と重なるかのように、線香花火の先端で小さな火の玉がぽっと出来上がった。
雨のせいで火花が散る小気味いい音が全く聞こえなかったが、ふるふると細かく震える小さな火の玉の明るい色が、どんよりとした空気の中で美しく映えていた。
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