第8話

「後は花火だけだから、残ってるお金全部遣ってたくさん買おう?」


 僕の腕を引いて前を歩くチリは実に楽しそうだったが、正直言って僕は彼女と二人で歩く事に抵抗感があった。


 朝、教室に入ってきてから放課後になるまで、終始誰かとおしゃべりをしているような彼女と、そんな彼女が醸し出す空気に未だ慣れないでいる僕との組み合わせなど滑稽でしかなく、ひどく居心地が悪かった。校門を出て、コンビニへと向かうあぜ道の上を歩くチリと僕との間には、一メートルほどの距離が出来上がっていた。


 辿り着いたコンビニのレジ前の棚に、これでもかと並べられている花火の数々をしっかりと吟味しているチリの横で、僕はとてもつまらない顔をして待っていた。


「まだかよ、上条…」


 僕が言うと、中腰になっていたチリは不満そうに顔を歪めてから「まだ見てるの」とだけ答える。僕から見れば花火なんてどれも同じに見えるのに、チリは充分に吟味を重ねて選んだ物をカゴの中に放り込んでいった。


 宣言した通り、チリは封筒の中に入っていたお金を大半遣って大量の花火を買い込んだ。いくつものビニール袋を両手一杯に持たされ、僕はふらふらとした足取りでコンビニを出る。買い込んだ花火を学校に置いていきましょうと、僕の目の前でチリが鼻歌を歌いながらさくさくと歩いていた。

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