第11話

(…しまった、見つかった!?)


 早紀は驚いて、掴んできた者を振り返った。レジにいる奴とは別に、もう一人いたのかと舌打ちもやりかけたが、意外な姿をその者に早紀の目が少し見開いた。


 早紀の手を掴むその手は、無数のあかぎれでひどく荒れている上に黒く汚れていて、爪の中にまでその汚れがびっしりと入り込んでいる。


 早紀が汚いと思うより前に、何ともひどい臭いが彼女の鼻をついた。


「…くせえっ!」


 掴まれた手を何とか振りほどこうと少し暴れる早紀の目の前にいたのは、ゆうに六十は過ぎているだろうと思われる初老の男だった。


 ただし、その格好はあまりにもみすぼらしい。


 手だけではなく、骨張った顔もあまりに短い髪の毛も薄汚れていて、着ている服もまるでいくつかの布切れをただ繋ぎ合わせたかのようにボロボロだ。


 どう見ても、ホームレスだった。


「ちょっ…離せよ、ジジイ!」


 早紀は嫌悪感を丸出しにして叫んだ。こんな「生き物」に触られるなんて、死ぬほど嫌だった。


 だが、どんなに力をこめて振り回しても、ホームレスの手は早紀から離れない。

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