第10話

早紀の目当ては、雑誌コーナーと隣り合うように並べられているコスメコーナーのリップスティックだ。


 最近発売されたばかりの新色ばかりが、キラキラ輝く飾りの付いたポップと一緒に棚に置かれている。


 早紀は左手にかけていたバッグのファスナーを半分ほどゆっくりと開けた。


 …よし、後は隙を見ていただくだけ。早紀の心が沸き立った。


「お兄ちゃん、これちょうだい!」


 少しして、お気に入りのお菓子を見つけられたのか、さっきの小学生達がいくつかの菓子袋を抱えてレジに向かうのが目の端に留まった。


「は~い、ありがとう~」


 男性店員が満面の笑みを浮かべて、レジで小学生達を迎えた。当然、彼の視界から早紀が外される。


(チャンス♪)


 慌てず、早紀はファッション誌を本棚に戻し、静かにコスメコーナーに歩を進めた。


 目の前には片手を使うだけで充分な大きさのリップスティック。


 そのうちの一つをさっと手に取ると、まるでそれが最初から自分の物であるというふうにバッグの中に入れようとした…。


 その時だった。


 リップスティックを持っていた早紀の手を、誰かの手ががっしりと掴んできたのだ。

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