第6話

ほんの少しの時間が経ってから、早紀はまだ吸いかけのタバコを足元に落として、ぐりぐりと踏み消した。


「ねえ」


 呟くように早紀が言った。


「チョコは?」

「…へ?」


 険悪気味な空気になりかけた事で戸惑っていた少女達の誰かが、何とも間抜けな声を出した。


「チョコはまだ来ないの?」

「う、うん…」


 チョコは早紀達グループのもう一人のメンバーで、本当の名は千代子といった。


 メンバーの中では一番背が低くてぽっちゃりとしているが、「腕」の方はなかなかだ。顔も、持っている服や小物さえも冴えなかったが、その腕があるから早紀はチョコを仲間にしていた。


 早紀は携帯電話を取り出し、デジタルの時計表示を確認した。


 午後四時二十三分、待ち合わせの時間はとっくに過ぎている。


 ヘマをしたのではないかと少しだけ不安になったその時、聞き慣れた能天気な声が早紀達の耳に届いた。


「早紀、皆ぁ~!」


 全員の視線が一ヶ所に集まる。すると早紀のわずかな不安など知りもせず、緑地公園の入り口の方でチョコが右手をぶんぶんと大きく振っていた。

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