第54話
――とは言ったものの、時間が経ち日ごとに冷静になってくると、何をどうすればいいのかわからなかった。
確かに遠藤に宣戦布告のようなものをすることで、自分の気持ちは後に引けなくなった。
でも、だからといって真尋にも告白して遠藤から掻っさらう…などという芸当はできそうにない。
悔しいことこの上ないが、真尋は遠藤を本当に好きなようだし、第一真尋が俺に関して一筋縄ではいかないことくらい俺自身がよく理解している。
よって、今はまだ行動に移す時ではない。
そう思った。
…などと格好良いことを言っているが、実際は単にその準備が自分に整っていないだけ。
玉砕覚悟で告白した航太に言うと怒られるか馬鹿にされるかしそうだが、あいつと俺とは違う。
「幼馴染み」はそれほど簡単な代物じゃなかった。
そうこうしているうちに、俺達の住む町に吹く風は夏特有の熱を帯びていった。
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「蘭堂、東高を受けてみないか?」
ある日のこと。
進路指導室の扉を叩き、そこにいた男の担任教師が俺の顔を見るなり言った。
呼び出しを受けた部屋の名からして、進路に関する類の話であろうことは予測していた。
相変わらず何の目星もついていない俺に担任からの追究があるのかと。
だから、本棚から何やら取り出したファイルを開いて告げられた言葉が意外すぎて、俺は椅子に座ろうとしていた体の動きを半端なまま止めてしまった。
「東高だよ、東高等学校。知っているだろ。あそこを推薦で受験してみないか?」
しきりに目を瞬かせる俺が理解できていないことを察したのか、更に続ける担任。
その顔は笑顔だが瞳は真剣で、真っ直ぐに俺を見ている。
俺は取り敢えず椅子に座ることにした。
東高といえば、俺の住む市にある公立高校。
確か学力は市内でもトップクラスで、有名大学への進学者も多いと評判の進学校だ。
まさかそんな所への進学話が用意されていると思ってもいなかった俺は、思わず吹き出してしまった。
「いや…それは無理っすよ」
申し訳ないが、この先生大丈夫かと心配にさえなってしまう。
ましてや推薦入試だなんて。
「どうしてだ?普段のテストの成績はいつも上位だし、実力テストの点も良い。十分狙える範囲だ。高校に入ってからも十分やっていけると思うぞ」
確かに、俺の成績は悪くないと自分でも思っている。
時には学年総合で1ケタ台の順位をマークしたこともある。
でも、問題はそこじゃない。
「先生、俺の素行知ってるんじゃないんすか」
「まぁ、お前の話は色々聞いているが…病欠以外では授業はちゃんと出ているし、態度も悪くない。むしろ、その面では高い評価を出している教科担当の先生もいるんだよ」
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