第53話

「……は?」


どれほどの時間を置いたか定かでないが、遠藤が発した声が静寂を割る。

ちゃんと耳に届いたとわかるや否や、俺の鼓動は強く打ち始めた。


…初めてだった。

真尋が好きだと誰かに言ったのは。


それが他でもない真尋の彼氏にであることも手伝い、これまでにないほど意気が上がる。

口に出した途端、あぁ俺は本当に真尋を好きだったのかと自覚して、堪らなくなった。


「…真尋ちゃんは俺と付き合ってんだけど」


この状況で不思議なくらいの落ち着いた声で告げる遠藤。

すげぇなと思う反面、この間のテーブルの下の密かな動揺を知っているだけに、こいつも平静を装っているんだろうとわかる。


当然の答えだ。

真尋は遠藤と付き合っている。

認めたくないが、相思相愛だ。


「知ってる」

「だったらどうして…」

「言っただろ。好きだからだ」


俺だって決めたんだ。

なかったことにするのはやめよう、と。


無茶苦茶なことを言っているのは承知の上。

でも、真尋を好きでいるためにはここを通らなきゃいけない気がするんだ。


だから―――



「俺は、捨てるつもりはないからな」


この想いを…

俺は捨てるつもりはない。


目の前で俺を睨む恋敵と比べれば、完全に俺のほうが分が悪い。

そんなことはわかっている。


けれど、やっぱり認めたくなくて、俺は固く拳を握った。

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