第48話
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四月になると、俺達は揃って進級した。
葉桜になりかけながら訪れた新しい春。
これまでと違うことなど何もないように思えていても、今年は少し様子が異なる。
それは恐らく3年生という独特さを持つ学年になったからで、それを物語るように早々に行われた進路希望調査。
これまでもリハーサルのようにたまに実施されていたが、今回からは本格的な感じが漂う。
まだフルで名前を覚えきれていない担任が、その大切さを説いていた。
調査用紙は進学か就職かの選択に始まり、志望校や志望学科へと質問が流れていく。
まだ真剣に進路について考えたことのなかった俺は、最初からつまづいた。
将来のことなどよく分からない。
でも、すぐに職に就いて金を稼がなければならない事情はないため、やはり高校進学をするとは思う。
そのため進学の欄に丸を付けたが、その他は空欄で提出した。
それを航太に話すと、あいつも同じだった。
将来について考えろと言われても、いまいちピンとこない。
何しろその「将来」とやらを生きたことがないのだから。
「私は西高を目指そうかと思ってるんだけど、第二女子とも迷ってるんだ。そっちのほうが制服が可愛いの。でも私立だから親は歓迎しないだろうなぁ」
帰り道。
ふとしたきっかけで始まった進路の話題。
これと言った話を提供することのできない俺は、さっきからずっと竹島の話に耳を傾けていた。
「でも…やっぱり女子高じゃなくて共学のほうがいいのかなぁ。…そしたら、司君と同じとこに行かれるかもしれないよね」
暫くして問われた俺の意思。
正直竹島と…誰かと一緒の進路を目指すという考えがなかったため、俺はイエスもノーも言えずに目を瞬かせた。
まぁ、そう考えると航太と同じ高校に進めたら楽しいかもしれないなとは思うけれど…
「俺は…まだよくわかんねぇから」
「そっか……ねぇ、だったら、同じ高校に決めない?2人で一緒に相談しようよ」
名案とばかりに目を輝かせる竹島。
本当に右も左も見えない状態の俺だが、それはやや飛躍しすぎではないかというのは解る。
可笑しさと困惑が合わさって少し笑いが零れた。
「いや…それは無理だろ、さすがに」
「そんなことないよ。私の学力が足りないなら、すごく勉強するよ、私。だって、これからも司君と一緒にいたいもん」
言いながら、俺の制服の袖を掴む。
そんな竹島の瞳や口調には、どこか必死さのようなものがあった。
俺は少々面食らって一瞬足が止まりかけた。
近頃の竹島は、こんなことが増えたように思う。
前にも増して教室に現れるようになったり、何とかして登下校を同じにしようと行動したり、今のように想いを真っ直ぐに口に出したり…
俺はその中にどこか積極性とは違うものを感じていた。
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