第46話

「竹島さん、買い物に行ったの?司はちゃんとついて来た?」


パンフレットをぞんざいに扱われたことへの仕返しか、ショップ袋にチラリと目を向けた後で俺を見ながら尋ねる真尋。

竹島は半分身を乗り出すようにして首を横に振った。


「全然。最初はいてくれるんだけど、気づくといなくなってるの」

「やっぱり。昔からそうなんですよ。いつも面倒臭そうで」

「遠藤君は?真尋ちゃんの買い物に付き合う?」

「まぁ…一人でいてもしょうがないし」


遠藤の答えを聞くなり、女子2人が物言いたげにまた俺を見る。


さすがはイケメン遠藤、あの状況で恥ずかしくないとは強者だ。

恥ずかしさを耐えてでも真尋といることを選んでいるとは思いたくなくて、半分自分に言い聞かせるように心で呟く。


それに、俺も近頃は面倒臭そうではなかったはずだ。

真尋が一緒となれば率先できる勢いであったように思う。

真尋は気づいていなかったようだけれど。


ディスられている印象を受けて面白くなさを感じながら、水のグラスを取って口を付ける。


早く注文した品が届かないもんだろうか。

そう思った矢先、器用に片手でトレイを持った店員が現れた。


待ってましたとばかりに見遣るものの、届けられたのはどちらも泡立っている形跡のないカップ&ソーサー2つ。


「カフェラテのお客様」


店員が問いかけ、真尋と遠藤が軽く手を挙げる。

色々と頭がいっぱいで気づかなかったが、2人の品物もまだだったらしい。


この居たたまれない空間にいる時間をほんの少し引き延ばされたように感じ、小さく溜め息を吐く。

だが、そこで違和感を覚え、動きを止めた。


店員は「カフェラテ」と言った。

そして、テーブルの上にあるのは、香ばしい香りと温かそうな湯気を立たせる飲み物。

まさしくコーヒーである。


「…それ、真尋のか?」


思わず問う。

すると、真尋は一度頷いた後、意外そうに向けた俺の眼差しに気づいたのか自分のであると示すようにコーヒーの乗ったソーサーを自分のほうに引き寄せた。


「なんでだよ」

「注文したから」


恐らく不可解そうな表情を浮かべている俺をよそに、砂糖を入れ始める真尋。

竹島と遠藤も不思議そうにしている。


だが、俺だって不思議でならない。

だって真尋は…


「でもお前、コーヒー飲めないだろ」


真尋は昔から苦味の強い物が苦手で、コーヒーも例外でなかったはずだ。

これまでに何度も遠慮する場面を見てきたから知っている。


「え…そうなの?」


隣で尋ねる遠藤。

真尋と俺とを見比べている。

真尋は慌てて首を振った。

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