第45話

「そうだ!ここ、私達も一緒に座っていい?」


何度目の驚きか知れない驚きに瞠目する。

ちょっと待てよ、竹島。

止める声が出ず、俺は竹島の肩に手をかけた。


「ちょうど話してたんだよね。何か飲みたいねって」

「でも竹島、ケーキ屋は…」

「いいのいいの。どうしてもケーキが良かった訳じゃないし」


もっと我が儘を通せばいいものをと思うくらいあっさりと予定を切り替える竹島。


冗談じゃない。

真尋だけならともかく、遠藤がいるここに相席なんて。


2人は再び互いを見合う。

真尋は笑顔で頷き、そして遠藤が答えた。


「いいよ、俺達は」


お前も許可してんじゃねぇよ、と悪態を吐きたくなるようなスムーズさで相席が決まる。

無論、拒否し続けるのが不自然であろうことは俺にも解って何も言えない。


竹島はさっさとコートを脱ぐと、真尋の隣に座ってマフラーや手袋をはずし始める。

すると必然的に俺の座るべき所は決まってきて、視線が合った遠藤はソファ席に俺の場所を空けるため、端へと身をずらした。


俺もコートを脱ぎ、まともに顔を合わせるのは初めてのように思う遠藤の隣に腰を下ろす。

気まずい空気が流れる余地もなく、すぐに店員がやって来た。


ホットコーヒーを注文した俺の後で、メニュー写真の中で何やら泡立っている甘そうなコーヒーを頼む竹島。

これまた疎い俺には分からないが、カプチーノというらしい。


「どこかに行ってたの?」


店員が去るなり竹島が真尋と遠藤に尋ねる。

また見つめ合われたらさすがに何かを言ってしまいそうなところだが、今度はしないままに頷く真尋。


「映画観てきたんです」

「へぇ、そうなんだ。どんなの?」


問われて鞄から取り出される1冊のパンフレット。

それは今人気のアクション映画のもので、その意外さに俺は目を瞬かせた。


真尋は確かアクション物はあまり好まなかったように思う。

好みが変わったのか、はたまた遠藤の希望に合わせたのか…恐らく後者のような気がする。


もし俺が相手だったら、かなり高い確率で真尋自身が観たい物を優先していただろうに。

またチリと胸が痛んだ。


そんな俺の気持ちなど知るはずもなく、竹島が広げたパンフレットを真尋と遠藤が覗き見てあらすじを話している。


「いいなぁ、私も観たい。司君、面白そうだよ」


目を輝かせた竹島が、彼女のおメガネに適ったパンフレットを差し出してくる。

実は俺もテレビでの予告などで見て気になってはいたのだが、なんだか一気に興味が湧かないものに思えてくる。


それだからか、パンフレットを一旦受け取ったもののパラパラと数枚ページを捲っただけでテーブルに置いた。


「もう、司。ちゃんと返してよ」


真尋が拾い上げ、鞄に戻す。

大切そうに扱われるその冊子にまで心の中で舌打ちしてしまう俺。


…器の小さい男だとつくづく思う

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