第44話
普段手袋などしない俺にその温もりはありがたい。
でも、それは竹島と俺との間に別の温度差を感じる瞬間でもあって、複雑な心境になる。
このままでいいのか、と俺の中の何かが問う。
時折吹き付ける風は、やはり冷たい。
ポケットに入れた逆の手を出すのが嫌で、煽られる前髪を避けるために風上を向けば、竹島は今年に入って肩より短く切った髪をなんとか手櫛で整えようとしている。
風でめちゃくちゃになった髪を俺に見られるのは嫌なんだと以前言っていた。
しょうがないのだから気にしなくていいのにと思うが、呑み込む。
恋する女の子はみんなそうなんだとも言っていた。
だとしたら真尋もなんだろうか…
ここにいる竹島に真尋が重なって気まずくて、ぶつかった視線を逸らしてしまう。
早いとこケーキ屋を目指そう。
足を速めようとした刹那、竹島が声を上げた。
「あれ?ねぇ、あのお店にいるの、司の幼馴染みの子じゃない?」
ギクリとして、逆に足が止まる。
同じく立ち止まった竹島の指が、通りに面する喫茶店を示している。
直感に近い嫌な予感がしてそちらを見ると、今度はドキリと鼓動が跳ねた。
そこには、真尋がいた。
窓際の一席に座っていて、向かい合わせに座る誰かと何やら話をしている。
テーブルを挟んだ先にいるのは、遠藤だった。
突然のことで絶句してしまう。
すると、竹島がそちらに向かって歩き出した。
「ちょ…っ、おい」
ギョッとして声をかける俺を引いて数メートルの距離を進むと、あろうことか真尋達がいる席の横の窓を叩く竹島。
2人は俺達に気づくと驚き露わに目を丸めた。
真尋はすぐに笑顔になり、小さくこちらに手を振る。
それに気を良くしたのか、竹島は更に驚くべきことに、俺の手を握ったまま店の入口へ向かい、扉を開けた。
頭上に取り付けられているベルがチリンチリンと音を立てる。
いらっしゃいませと出迎える店員を素通りして明らかに真尋達のもとへ行こうとしている竹島に手を引かれ、動揺した俺は店員に会釈をするので精一杯。
あれよあれよと言う間に到着してしまった。
「やっぱりそうだった!神崎さんだよね?それに遠藤君も」
俺の記憶の中では、少なくとも真尋とは面識がないに等しいにもかかわらず気さくに話しかける竹島。
真尋は挨拶を返して頷いた。
そして俺を見る。遠藤も共に。
俺は握られていた手を咄嗟に離した。
「デート?」
竹島が問う。
余計な質問を、と思いながら真尋と遠藤を見ると、2人は顔を見合わせ照れたように微笑み合った。
「仲良いねー」
「でも、司と竹島さんこそ」
照れ臭さから逃げようとしてか、こちらに話題をすり替えようとしている真尋。
今度は竹島と俺が顔を見合わせる番だが、俺は笑えなかった。
それどころか、目の前で見た2人の仕草に小さく胸が焦げるのを感じる始末。
すると、竹島が不意に何かを思い立ったように、手袋をした手をポフと打ち鳴らした。
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