第41話
「…関係なくないよ」
返る答えに視線が向く。
以前からよくあったこの応酬。
自分は俺に関係しているという真尋の認識。
突っぱねた俺に返されるこの言葉に期待を覚えるのは初めてだった。
だが、それもすぐに落胆に変わる。
「だって、なんとなく竹島さんの気持ち解るもん。私があの人だったら、やっぱりちょっと傷つくかも」
「…じゃあ、先にある約束を断れってことかよ」
「違うよ、そうじゃない。断るなら断るで、もう少し竹島さんの気持ちを考えた言い方してあげなよっていう意味」
…そうかもしれない。
素直に思う。
それがさっきの竹島の態度を変えさせてしまった理由であると。
でも、真尋には言われたくない。
言われたくない。
真尋にだけは。
「真尋も思うのか?…彼女、だからって」
気が付くと、そう尋ねていた。
真尋の考えを知りたい気持ちと、本当に自分にデリカシーというものが欠落しているのかを知りたい気持ちが半々で。
すると、真尋は首を横に振った。
「思わない。もちろん私を優先してくれたら嬉しいけど…友達や約束を大事にしてるんだなと思うと、なんかいいじゃん。私だって菊乃や他の友達を優先することもあるし」
告げながらはにかむ真尋。
その姿が可愛く思えて、内容にも安堵。
だが、相槌を打ちかけてハッとする。
真尋の向こうに誰かの気配を感じる。
それは紛れもなく遠藤のもの。
あいつが真尋に嬉しいと感じさせる相手であること、これまでに真尋が友情を優先させたことがあるという二人の交際の中身…
全くもって要らぬ情報を照れたように語る真尋が歯痒い。
増してや、そんな真尋を前にしても何も言えない自分さえも。
否めない心の揺らぎを悟られたくなくて視線を巡らせる。
すると、真尋が胸に抱いている冊子が今更ながらに気になって、話題を変える意味でも尋ねてみた。
「…それ、何だ?」
一瞬きょとんとする真尋。
それでもすぐに“それ”が指すものに気付くと、腕の中から出して表紙をこちらに見せる。
さほど厚みはなく、シンプルかつ繊細なデザインの文字が描かれたその冊子は、楽譜だった。
「G線上のアリア。図書室にあったから借りてきたの」
G線上のアリア。
表紙に外国語が並んでいるためわからないが、楽譜の曲名だろうか…どこかで聞いた覚えのあるようなフレーズに首を傾げると、真尋は僅かにページを捲ってみせた。
「覚えてない?昔、ママがよくピアノで弾いてたの。本来はバイオリンの曲なんだけど」
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