第40話

呼び止めたからには何か用があったのだろうと思うものの、予想外で目を瞬かせる。


…明日。

その単語が気になりつつも、なんで、と尋ねれば、畳みかけられる竹島の言葉。


「あのね、私ちょっと買いたい物があるの。だから、良かったら明日モールについてきてくれたら嬉しいなと思って…」


言われて腑に落ちる。

さすがの俺でも薄々は気付いていたらしい。


「ごめん。明日はちょっと…」

「え、何かあるの?」

「航太達とスケート行くんだ」

「スケート…あ、新しくできた所?」


頷くと、竹島の顔はあからさまに不満げに変わった。


「そんな…断れないの?」

「まあ…うん」

「どうして?デートのつもりで誘ってるんだよ、私」

「でも、あいつらとの約束のほうが先だったし」

「そうだけど、友達との約束でしょ。私は彼女なんだよ?」


…えー、と…

なぜだか理解が及ばなくて、頭の中でつい声が漏れ、整理する間を置いてしまう。


竹島は、そんな俺を見てますます表情を曇らせていく。

そして、今友情と恋愛とを天秤にかけることを迫られていることに俺が気づいたと同時、彼女は低く呟いた。


「…司君にとっての私ってその程度なんだ」

「…竹島…?」

「もういいよ。一人で行くから」


捨てるように言い残すと、制する間もなく駆け出す竹島。

咄嗟に追うことのできなかった俺を置いて、階段を昇っていってしまった。


残された俺は、とりあえず頭を掻く。


これは、俺が悪いんだろうか…

先約は先約だ。

竹島のほうに優先すべき事情があるならともかく、何もないのだから先にあった約束をとったっていいんじゃないのか?


そう思うのに、非は俺にあるとしか思えなくなるような事の運びに戸惑ってしまう。



それでもいつまでもここに立ち止まっていても仕方ない。

目の前の階段に足をかける。

すると、今しがた竹島が駆け上がっていったその頂に、思いがけない姿があって動きを止めた。


「あーあ、何やってんの、司」


胸元に何やら本のようなものを持ち、固まる俺を見下ろすその姿…

そこには真尋が立っていた。


「あんな風に言わなくてもいいのに。竹島さんが可哀想だよ」


何について言っているのかは主語がなくともよく分かる。

まさか聞かれていたとは。

他でもない真尋に。


バツが悪くなり、俺は再び上へと昇り始めた。


「…聞いてたのか」

「聞こえたの、通りかかったら。ねぇ、司。もうちょっと優しい言い方してあげなよ」

「だって本当のことだし」

「それでもだよ。司って本当にデリカシーないんだから。なんだか鈍いし」

「……」


どう思う、いきなり現れてのこの言い様。

見下ろされてでは分が悪い気がして、同じ段で足を止める。


「真尋には関係ないだろ」


果たして本当に無関係なのか、わからないままに言葉を返す。

すると、真尋はどこか悲しそうに眉を下げた。

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